(13)コカの話

コカノキ(マチュピチュ遺跡内の植物園)

コカノキ(またはコカ)
Erythroxylon coca、コカノキ科

ペルーおよびボリビア原産の常緑低木。標高700〜1700mで栽培される。葉は互生し長径5−6cmの楕円形。花は初夏に咲き、小さく白〜黄緑色、花弁は5枚。約1cmの赤い実をつける。葉にアルカロイドのコカインを含む。コカインには局所麻酔作用や中枢興奮作用などがある。局所麻酔薬として医薬品に用いられる一方、刺激を求めて嗜好品として乱用すると重い薬物中毒や薬物依存に陥ることから、多くの国で使用が厳しく規制されている。日本では麻薬に指定されており、コカインはもちろん、コカの葉もティーバッグも持ちこむことはできない。

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コカノキはアンデスに行ったらぜひ見たい植物の一つだったので、インカトレイルを歩き始めた時に、ガイドさんに「コカノキがあったら教えて下さいね」と頼んだ。でも「このトレイルにはありません。もう少し低いところでないと・・・。マチュピチュにはあります」という返事だった。マチュピチュの小さな植物園にあったのは、高さ1mたらずで、葉は柔らかそうな明るい緑だった。

アンデスの人々の暮らしとコカ

アンデス山地の人々は、コカの葉をライムや灰(活性成分が遊離されやすくなる)と共に噛み、厳しいアンデス高地での生活(寒さと飢え)に耐えたと言われています。ボリビアの鉱山労働者はコカの葉を口いっぱいに含んで噛みながら、眠気と疲れを覚えずに働いたそうです。

今でも、コカ茶はペルーの人々に日常的に飲まれており、どこのレストランでも、乾燥した葉や、ティーバッグ形式のものが、紅茶のティーバッグと並んでありました。コカ茶は高山病に良いと言われていますが、私にはよくわかりませんでした。「覚醒作用があるか?」と問われれば、「緑茶の方が、目が覚めます」と断言できます。でも、飲みやすいので(というより味は殆どない)「高山病に良い」ことを信じて飲んでいました。

ついでですが、コカ・コーラの名は、原料の1部だったコカノキとコーラノキ(アオギリ科、西アフリカ原産で種子を用いる)に由来しているようです。当初はコカのエキスが入っていたそうですが、今はもちろん入っていません。


乾燥したコカの葉に熱湯を注いで飲む。

レストランのコカ茶

コカ茶のティバッグ

コカインとフロイトとシャーロック・ホームズ

フロイトは精神分析で有名ですが(と思うのは我々年配者で、今の若い人はフロイトと言っても「誰?」という感じです)、当時すでにコカの葉から抽出されていたコカインについて研究し、局所麻酔作用のあることを見い出していたそうです。そして眼の手術や抜歯に応用されるようになりました。後に、コカインの毒性が知られるようになり、コカインの化学構造をまねて、毒性の少ない局所麻酔薬が作られるようになりました。

ところで、30年くらい前の映画に「シャーロック・ホームズの華麗な冒険」というのがありました。私は映画についての予備知識無しに、ホームズの探偵ものだろうと思って見たのですが、大変印象深かったことには、ホームズがコカイン中毒になっていて、フロイトに治療を受けていたのです。コカインなどの薬物中毒では虫が体中を這い回る感じを持つ事があるらしいのですが、それを芋虫のような虫が這い回る映像にしていたのを覚えています。フロイトが登場する場面では、懐中時計を振り子のように振って、ホームズに催眠術をかけて治療する場面がありました。

私が読んだシャーロック・ホームズ シリーズの中には映画のような作品は無かったと思って、調べて見ましたら、映画の原作はニコラス・メイヤーによるパティーシュ(模倣作品)・パロディだそうです。もっとも、ホームズの作者のコナン・ドイルは眼科医だったそうで、ホームズシリーズにもコカインのことは出て来るようです。その頃(19世紀後半)、欧州ではコカインは出始めでちょっとしたブームだったようです。